大エジプト博物館保存修復センター(以下、「GEM-CC」)プロジェクトでは、2015年5月24日~28日にかけてオーガニック(パーチメント)研修を実施しました。オーガニック研修では、網羅的に多様な素材の理解の促進が求められており、今回の取り組みは今までの研修では扱ってこなかったパーチメントという素材を紹介する画期的な機会となりました。

パーチメントとは西アジア,ヨーロッパで重要公文書などの書写用に使われる動物の皮のことをいいます。日本語で羊皮、羊皮紙等とも言いますが、羊だけではなく、主に牛、山羊他、様々な動物の皮膚から作られています。エジプトでは古代より文書や身の回りの道具の一部等に利用されてきたと考えられています。今回パーチメント研修は一度きりの研修であり、今までの4回行った染織品研修とは異なる哺乳類動物皮を対象とすることで、タンパク質素材に対する理解を深める研修となりました。今回は、パーチメントへ修復処置を行う前に知るべき基礎知識の習得を第一の目的とし、GEM-CCに収蔵されているパーチメントを扱うために適切な取扱いの向上を目指しました。同時に、研修を通し、パーチメント修復に対する可能性と限界、また遺物への様々な対応方法(展示、貸し出し、研究のための特別閲覧)、その選択肢の多様性と手法の判断等について、多くのディスカッションを重ねる研修となりました。

講師:

内田夕貴(英国ノーフォークアーカイブセンター)

本研修にはGEM-CCからはオーガニックラボを中心とした保存修復家計11名が参加しました。本研修では、まず、歴史、パーチメントの製造方法、哺乳類皮膚の物理的構造、化学的性質、動物種の同定、様式の概要、様々な劣化の要因と挙動、これらの正確な把握が実際の修復処置の選択肢に繋がるのかについての講義を行いました。 実習では、現在も中世ヨーロッパの方法で製造されている子牛、羊、山羊のパーチメントを用いてその特性を知るとともに、パーチメントサンプルの一部に加水、加熱、乾燥させ、パーチメントの劣化に関する共通の形状について4チームに分かれて実験しました。この実験の目的は、パーチメントに対するリスクを実験を通して修復処置や展示・収蔵を含むパーチメント取り扱い時に避ければなならいことを理解することにありました。また、パーチメントの修復材料の見本について講義を受け、講師が行った様々な修復・展示・収蔵事例を通して、パーチメント修復と遺物への対処に対する英国での取り組み方の概要を学び、保管、梱包、展示についても理解を深めました。課外実習として、エジプト博物館とコプト博物館それぞれのパーチメントに関する展示を見学した他、それぞれの修復ラボにて修復家よりパーチメント修復の実例の説明を受けました。結果、エジプト博物館においては、現在パピルスとして展示されている遺物のうち数点がパーチメントであることが判明しました。これは、研修の成果でもあるとともに、学術的にも意味のある興味深い発見でした。本研修はパピルスコレクションの正確な素材同定に寄与することが期待できます。

エジプト訪問が初めての講師でありましたが、研修生がが研修に協力的で、終始集中力をもって取り組むことができました。これまでのJICAとの信頼関係の構築が活かされていると考えられます。

課外実習の日は季節外れの砂嵐に見舞われ、また気温も最高気温50度に達したこともあり、非常に厳しい自然環境でしたが、全員無事参加することができました。

顕微鏡を用いての動物皮膚の毛穴の観察とパーチメントの動物種の同定
内田講師によるパーチメントの修復材料に関する説明
エジプト博物館におけるパーチメントの展示に関する説明
閉会式の後の集合写真