2010年4月30日

 大エジプト博物館の将来について考えるレクチャー・シリーズの第1回を開催しました

 2010年4月29日、考古学データベース部門(ADD)スタッフに大エジプト博物館の将来と現在のADDの仕事の意義を考えてもらう機会として、エジプト学や博物館、文化遺産などの分野の専門家を招くレクチャー・シリーズを開催することにしました。せっかくの機会なので、エジプトに住む日本人にもひろく参加してもらえればと思っています。

 今回は記念すべき第一回として、フェクリ・ハッサン氏(ロンドン大学考古学研究所名誉教授)に「古代エジプト再考~よりよい将来のための課題」と題する講義をしてもらいました。ハッサン教授は文化遺産と開発や文化遺産マネジメントに関する造詣が深く、大エジプト博物館のコンセプトづくりにも大きな役割を果たした人です。

 講義ではまず、ギリシャ時代以降の西欧の歴史の中で「古代エジプト」が知識の源や権力の象徴としていかに影響を与えてきたかを紐解きました。そのため、ロゼッタストーンやオベリスクのように、古代エジプトの「遺物」がトロフィーのように獲得する対象として扱われたり、また植民地時代以降は映画のテーマになるなど娯楽の源として扱われてきたことが説明されました。古代エジプトの遺物は当時持っていた社会的意味から切り離されて扱われてきたのです。

 これに対して、これら過去のものを「残り物」という否定的なイメージを持つ「遺物」としてではなく、人々によって親しまれ、価値あるものとして受け継がれてきた「遺産」としてとらえなおし、古代エジプトの黄金の宝ではなく、黄金の英知を分析することによって、人類の将来に役立てるべきであると話されました。

 これからは、古代エジプトの遺産はグローバルな時代に調和の基礎として、自然や他の文化とつながる手段として、人類共通のアイデンティティーを模索する手段として利用することができる、また、遺産開発プロジェクトを通して地元の人々を訓練し、小規模融資によって文化遺産や自然遺産に関わる仕事を作り出すことによって貧困軽減の手段としても利用することができる、さらに古代エジプトという過去の知識を動員することによって、気候変動のような現在そして未来の問題に対処することができると述べられ、将来へのアジェンダが提示されました。

 アジェンダの実現に向けた具体的な方策として、遺産の調査や教育の分野での異文化間多国籍間パートナーシップの構築、遺産に関する一般の人々への啓蒙活動や遺産管理へのコミュニティ参加、遺産に関わる専門家の能力開発などがあげられました。大エジプト博物館(GEM)のような新しい遺産施設の設立もひとつの方策であるとのことです。最後に、GEMは世界の文化の中心としての機能を果たすことになるであろうと締めくくられました。

 講義に鼓舞されたスタッフたちから次々に質問が出されました。「高い地位についている人々によって変化が妨げられている現状で自分たちにいったい何ができるのか」、「いかに普通のエジプト人に古代エジプト文明への関心を持ってもらえるか」、「すでにエジプトには4000年の歴史があるのだから現代のエジプト人は何もしなくていいのではないか」、などです。ハッサン氏は特に、普通のエジプト人と距離を置いたスタッフのコメントに対して、エジプトのスピリットを本当に受け継いできたのは普通のエジプト人であり、謙虚さを持って初めて知識は得られると答えていたのが印象的でした。

 今回の講義によってADDスタッフは、グローバル時代の古代エジプトの役割やその中でのGEMの重要性についての理解を深めるとともに、現在行っている文化財データベース整備作業の位置づけを改めて確認できたようです。

これからも、GEMについて考える糧となるようなレクチャーを実施していきます。(了)


講義をするフェクリ・ハッサン氏
質疑応答の様子
スタッフの要望で一緒に記念写真をとりました。