2012年2月27日
2012年2月26、27日に大エジプト博物館保存修復センター(GEM-CC)とJICA GEM-CCプロジェクトの共同で、第1回学術シンポジウムを開催しました。
シ ンポジウムの開催目的は、本プロジェクトが実施している人材育成の成果を、エジプト国内外の考古学や保存修復に携わる専門家や関係者に、研究発表や活動報 告という形で発表すること、またGEM-CCのスタッフが外部から招へいした研究者の発表を聞き、ディスカッション等を通じ、知識を修得し、今後の彼らの 活動に活かすことです。
シンポジウムには、在エジプト日本国大使、JICAエジプト事務所長、エジプト国内の博物館の館長や保存修復部長、大学考古学部保存修復学科の教授陣、在カイロ外国研究所から、両日で、延べ319名が参加しました。
開 催式では、奥田大使、井黒JICA所長およびバシールGEM事務局長から開会の挨拶が述べられ、続いて発表の皮切りに、GEM-CC副センター長のオサマ 氏がJICAとGEM-CCの協力による人材育成について紹介、また同技術部長フセイン氏からはGEM-CCの施設、組織と機能についての説明がありまし た。
基調講演では、独立行政法人東京文化財研究所文化遺産国際協力センター長川野邊渉博士が、欧米とは異なる日本の保存修復の理念に つ い て、最近の保存修復事例を交えて紹介しました。ついでGEM-CCの保存修復コンサルタント、ナディア・ロクマ氏がGEM-CCを中心にしたエジプトでの 保存修復活動について講演を行いました。その後の質疑応答では、日本の保存修復について知る機会の少ないエジプト人専門家から多くの質問があり、エジプト や欧米の保存修復の理念と比較をしつつ活発に意見交換が行われました。
GEM-CCの活動について、3名のスタッフが約150名の GEM-CCのスタッフを代表して発表を行いました。イマン氏(無機物文化財ラボ長)からはGEM-CCの現状に基づいた保存修復ラボについての考え、木 製文化財ラボのヌール氏は、GEM-CCで保存修復処理を行った木製イビス像の修復過程の発表、ベッサム氏(特別保存修復ラボ)とシャイマ氏(微生物ラ ボ)は、共同研究中の石製彫像に付着している微生物の同定と保存修復処理についての発表を行いました。
2日目には、これまで本プロジェ ク トが実施したセンターでの人材育成研修の成果をスタッフが発表しました。シャーバアン氏(準備室長)は、「遺物取り扱い研修」や「収蔵品管理研修」で学ん だ文化財を傷めず安全に保存するための収納箱や配架方法について同センターで実践している例を使いながら、説明しました。文化財管理をする学芸員長のサ イード氏は、「収蔵品管理研修」を通じて作成したアクションプランに基づいた、センターのの収蔵システムについて発表しました。最後に、本プロジェクトの 考古学データベース部のアトワ氏は、プロジェクトでサポートをしているGEMの博物館データベースの作業過程、収蔵庫内の配架システムについて話しまし た。
シンポジウム最終日の午後には、普通の日は許可を受けたもののみしか入館できないセンターの施設見学ツアーを実施しました。少数づ つ のグループにわかれ、保存修復ラボや科学ラボ、収蔵庫を見学し、見学者からは、施設のすばらしさだけでなく、保存修復の方法や研究内容についても意見が述 べられました。
本プロジェクト・フェーズ2では、研修を通じた人材育成だけでなく、シンポジウムの開催やエジプト内外で開催されるシ ン ポ ジウムへの参加を通じて、国際的な場において学術的な研究を発表し、国内外の保存修復研究への寄与とGEM-CCの国際的な認知を広げる活動も行っていま す。2011年9月には、国際博物館協会・保存修復委員が3年に1度開催する世界最大の保存修復学会へ、GEM-CCの技術部長と保存修復家2名をポルト ガルに派遣し、最新の調査・研究について学び、また世界各国の専門家と意見交換を行う場を設けました。3年後にはスタッフが同学会において研究の成果を発 表することを目標としています。今後も毎年シンポジウムをGEM-CCと共同開催していく予定です。
GEM-CCオサマ副センター長によるJICAによるGEM-CCスタッフへの人材育成について発表
川野邊東京文化財研究所文化遺産国際協力センター長の基調講演。日本の保存修復の考え方に対し、質問が多くありました。
GEM-CC保存修復コンサルタントナディア氏による基調講演
金属保存修復ラボ長のイマン氏の発表ではGEM-CCの現状や保存修復ラボのあり方について議論しました
ADDマネジャーアトワ氏によるADDの作業内容・手順・成果についての発表
2月26日(日) (セッションA) |
|||||
時間 | 内容 | 発表者 | 進行役 | ||
9.00 – 9.45 | 受付 | – | – | ||
10.00 – 10.30 | 開会式 | フセイニ・バシール博士(GEM局長)
奥田紀宏大使 (在エジプト日本国大使) 井黒伸宏所長 (JICA エジプト事務所所長) |
|||
10.30 – 11.00 | GEM-CCとJICAの協力 | オサマ・アブ・エルヘイル氏(GEM-CCセンター部長) | ムハンマド・サレ博士(GEM考古学コンサルタント) | ||
11.00 – 11.30 | GEM-CCの施設紹介 | フセイン・カマル氏(GEM-CCセンター技術長) | |||
11.30 – 12.00 | 休憩 | – | |||
12.00 – 12.35 | 基調講演 1日本の保存修復理念 | 川野邊渉博士(東京文化財研究所文化遺産国際協力センターセンター長) | |||
12.35 – 13.10 | 基調講演 2 | ナディア・ロクマ博士(GEM-CC保存修復コンサルタント) | |||
13.10 – 13.30 | 討議 | – | – | ||
休憩 | |||||
セッションB | |||||
14.30 – 14.50 | 保存修復ラボの役割 | イマン・アブダッラ氏(GEM-CC無機物文化財ラボ長) | ナディア・ロクマ博士 | ||
14.50 – 15.10 | 古代エジプト木製イビス像の保存修復過程 | ヌール・ムハンマド(GEM-CC保存修復家) | |||
15.10 – 15.30 | GEM-CCにおける石灰岩製文化財の生物劣化と保存修復処理 | ベッサム・ゲハッド氏(GEM-CC保存修復家)
シャイマ・サアド氏 (GEM-CC微生物専門家) |
|||
15.30 – 15.50 | 討議 | – | |||
2月27日(月) (セッションB) |
|||||
9.00 – 9.45 | 受付 | – | – | ||
10.00 – 10.20 | GEM-CCの考古遺物収蔵庫における文化財の収納方法 | アハメド・シャーバアン氏(GEM-CC準備室長) | ムハンマド・サレ博士 | ||
10.20 – 10.40 | GEM-CCにおける収蔵システム | サイード・シェブル氏(GEM 学芸員長) | |||
10.40 – 11.00 | ADDの役割 | ムハンマド・アトワ氏(考古学データベース部ジェネラルマネジャーマネジャー) | |||
11.00 – 11.30 | 討議 | ||||
11.30 – 12.00 | 閉会式 | バシール・フセイニ博士 | オサマ・アブ・エルヘイル氏 | ||
休憩 | |||||
13.30 – 15.30 | GEM CC見学ツアー | ||||