「保存修復材料としての和紙」研修を3月4日から8日までの5日間、GEM-CCにて行いました。この研修の目的は日本の伝統工芸のひとつであり、保存修復材料としては世界的に使用されている和紙を、古代エジプト文化財の保存修復にも利用していく試みです。

日本には、絵画、古文書、書跡、工芸など紙をベースにした文化財が多数存在します。気候が温暖多湿の日本でこれらの文化財を保存する技術は、紙文化財とともに発達してきました。和紙は、紙をベースにした美術や文化財だけでなく、他の素材を使用した文化財の保存修復にも活用されています。今日、和紙は、多くの欧米諸国においてすぐれた保存修復材料として認められ広く利用されています。

エジプトにおける保存修復でもすでに和紙は使用されています。しかし、他の欧米諸国でもみられるように、保存修復家が和紙そのものの特性、素材の特性、関連して使用される糊などの知識を有していないことも多くあります。そのため、和紙のよさが最大限に活かされていないことも少なくありません。今回の研修では、保存修復家に和紙の基礎的な知識を理解してもらうことをねらいとし、さまざまな和紙を観察し、手で触れてもらい、また講義と実習を通じて製作方法、裏打ち、表打ちなどについて学んでもらいました。将来自国の文化財を保存修復するために和紙をもっと活用してもらえるようになることを目指しています。

本研修は、紙の保存修復や科学を専門とする加藤正人氏(東京文化財研究所)、楠京子氏(同左)、井上さやか氏(株式会社修護)の3名の日本人講師により保存修復家を対象に特別に計画されました。

材料化学の方法論を用い、文化財保存修復に用いられている和紙の製造過程と技術や和紙と共に使用する日本の伝統的な有機糊の種類、強度、製作方法などについて、研修を行いました。